perception

夕方、学校が終わって予備校に行くために京王線に乗る前にブックオフに行き105円の棚で投げやりに、椎名誠のサイン本がないかと乱暴な手つきで探していたらU田さんに会った。U田さんは古本屋でたまに見かける人で、私のことを「高校生」という二人称で呼ぶ。私はU田さんにこう呼ばれるのが好きである。没個性的なもの、例えば白衣、或いは制服とか背広、匣、パラフィン紙、そんなモノたちを好む性質が私にあるからだろうか。U田さんはいつも鳥打帽をかぶっていて、ガリガリ痩せていて、目が爛々としていて、携帯はiPhoneで、少し嗄れた声が不思議と通る。ふと思ったのだが、私はU田さんの匂いが好きである。蜜蝋のような匂いがするのである。匂いといえば、私はTさんの匂いも好きなのである。Tさんはもっぱら私の片恋の相手であり、あの古本屋に屯す面々の一人である。古本屋の店員Kさんと、このU田さんと、そしてTさんは三羽烏的存在である(多分)。Tさんからは、私が愛用している香水、父の友人がつくった(たぶん)香水、SUGARと似た甘い匂いがする。さて、ブックオフで偶然行きあった私とU田さんは、少し立ち話をした。私がさいきん漫画しか読んでないと言ったら、U田さんは、それはS書房の影響かい、もしそうならあそこには出入りをやめたほうがいいよまったくね、悪影響しか与えないんだからね、このままだと俺みたいになってしまうよはははははと言った。U田さんはさいきん小説が読めないのだという。学術書ばかり読んでいるのだという。知識の探求というかね、そういうね、俺も歳とったのかなあ、と言ってU田さんは笑った。16:50くらいに、私はブックオフを出た。別れ際U田さんは私に、息抜きしたほうがいいよ息抜き、と言ったがそれは私が古本屋に入り浸ったりブックオフで徘徊している様を踏まえた冗談だったのだろうか。U田さんはじゃ!と言いながら指先をぴんとのばした掌をしゅばっと顔の高さにあげて挨拶してくれた。いつも別れ際にはU田さんは私に気をつけてねと言うのだが今日は気をつけてねとは言わなかった。まだ夕方だったからだろうか。
ブックオフを出ると風が強く吹いていて(ブックオフに入る前も吹いていたけれど)、私はバサバサするスカートの裾を気にしながら駅に向かった。あたりは薄明るくて景色には色がなかった。冬の色だと思った。色がない世界だ、と髪や服とバサバサ戯れる風の中をうきうきしながら歩くとしかし、空は空色に輝いているのである。