2014-10-14,Tue.

小説「官能」

どろどろに疲れて眠りにつくときのようなこころもとない上質なやわらかさのソファに沈みこみながら、わたしは煙草をくわえた。両切りのピース。その男は、桃の絵のついたマッチの箱から一本取り出して、火をつけてくれるのかと思ったがそのまま箱と一緒にわたしに手渡した。
煙を吸えば煙草の葉っぱのちいさな滓が口のなかにすべりこんでくる。男はむかいに座り口許に4本の指を揃えてあてて、じっとわたしを眺める。くたびれた背広を着て、ネクタイはしていない。白髪の混じった黒髪は乱暴にうしろに撫でつけてある。わたしは煙草の味に耐えられなくなって、目の前にある水の入ったグラスに喫いかけの煙草を投げ入れた。じわッと音が響いた。わたしはそのグラスを手にとり、煙草で汚れた水をひとくち飲んだ。男は立ち上がってわたしからグラスを奪い、中身を床に捨てた。飛沫が男の靴を濡らした。わたしはひざまずいてぺろりと、男の靴を嘗めた。男は動揺したように見えた。革と埃と煙草のにおいが鼻をつき、わたしは顔をしかめた。
わたしは男の頭に腕を巻きつけ、くちづけした。革と埃と煙草の味を、残らず男の口に流し込んだ。男はわたしの舌を吸い、わたしは魂まで吸いとられてしまうのではないかとおもった。わたしは服を身につけていなかった。わたしは足首に粘着質の液体がつたうのを感じ、じぶんがこの男に抱かれたがっていることを知った。
キスは永遠で、床に垂れたわたしの体液が乾いてカサカサと音をたてるようになってもまだ、男はわたしの舌を吸い続けていた。