2014-10-22,Wed. その2

Oがジャクリーヌに殴りかかるのを、ルネが押しとどめた。Oはルネの腕のなかで身をもがきながら、自分が無力な、彼のなすがままになっている存在であることを感じ、嬉しかった。そして、ふと頭をあげると、ステファン卿が戸口に立って、自分をじっと見つめているのに気がついたのである。ジャクリーヌは長椅子のそばに飛びさがり、彼女の小さな顔は恐怖と怒りに硬ばった。Oには、ルネが自分を抑えつけるのに忙殺されていながらも、ジャクリーヌの方にしか注意を向けていないのがよく分った。Oは抵抗するのをやめ、ステファン卿の目の前でまで失態を演じてしまったことに絶望しながら、もう一度、今度は低い声で、「うそだわ。誓って言うけど、これはうそなのよ」と繰り返した。

ステファン卿は一言もいわず、ジャクリーヌに一瞥もあたえずに、ルネにOを放してやるよう合図すると、Oにこちらへ来るようにと言った。しかしドアを出た途端、彼女は壁に押しつけられ、腹と乳房をつかまれ、口もステファン卿の舌でこじあけられて、幸福と解放感とにうめき声をあげた。彼女の乳首はステファン卿の手の下で硬くなった。もう一方の手で、彼はOが気を失うかと思うほど、荒々しく腹をさぐった。彼が彼女を用いる時の自由さ、彼女の肉体から自分の快楽を引き出すのに、いかなる手心をも加えず、いかなる制限をも設ける必要がないことを知っているその確信、それらをまざまざと味わう時の彼女の幸福にくらべれば、どんな快楽も、どんな喜びも、どんな空想も物の数ではないということを、彼女はあえてステファン卿に告白したことは一度もなかった。愛撫のためであれ打擲のためであれ、彼の手が彼女の身体にふれ、何事かを彼女に命令するのは、ひとえに彼がそれを望んでいるからであり、たしかに彼には自分自身の欲望しか眼中にないだと思うと、Oは、その証拠を見せつけられるたびに、あるいはただそれを頭のなかで考えただけでも、肩から膝まで覆う火の衣か、燃える鎧を身にまとったかと思うほど、幸福でいっぱいになるのであった。彼女はこうして壁にもたれて立ち、目をとじ、息をすることができるあいだは、愛してるわとささやきつづけた。


ポーリーヌ・レアージュ『オー嬢の物語』澁澤龍彦・訳