2015-05-19,Tue. その3

眼鏡をかけないで散歩に出る。ぼやけた世界では木陰の湿り気を感じやすい。向こうの遊具のある公園には人がたくさん居るがこちらの森の公園にはほとんど居ない。遠くの方でボールを蹴る親子と、目の前で餌を探す一羽の鳩。以前この公園でおにぎりを食べていたら、知らない老人に「何か活動やってるんですか」と話しかけられた。今日はその老人も居ない。羽虫が飛び交っている。わたしは虫に刺されない体質だが、近くを飛び廻られるだけで身体が痒いような気がしてくる。ここそこでくっくクックくー、と鳩が鳴いている。遊具の公園の向こうに小さな川があることを私は知っている。その川のことを思う。水のことを思う。私の背後の小さな森の向こうには更に小さな川がある。右手の人差し指の付け根にかつてあった黒子のことを思う。幼かった頃、身体に黒子はこれしかなかった。これを消そうと思って毎日必死で擦った。黒子は消えた。今では黒子があったことそのものが夢だったのではないかと思う。擦って黒子が消えるわけがない。木々の向こうに見える遊具群は実に感傷的な色をしている。濃緑の中に浮かぶ感傷的な水色、感傷的なピンク、感傷的な黄色、感傷的な青、感傷的な赤。鳩よりも小さな(あるいはそう見えるだけかもしれない)鳥が、素晴らしい速さで地面に降り立つ。華麗なボール捌きの若い母親がまだ幼稚園にも入っていないだろう幼い息子にテニスを仕込んでいる。グレーのシャツを着た幼い息子のラケットにボールは当たらない。青いシャツを着た、小学校に入ったばかりという風情の兄が弟からラケットを取り上げ、母とボールのやり取りをはじめる。サーブ下手だね、と母親が言う。青シャツの息子は何も言わず夢中でボールを打ち続ける。灰シャツの弟は小さな自転車に器用に乗って、母親の気を惹こうと「ママー、見て、すごい、すごい、わあーっ!」と叫び速さを自慢する。くっくクックくー、と鳩が合唱する。薄く光る曇り空に、公園は黄色くくすんでいく。